「墨のゆらめき」あらすじ
※ネタバレ含みます。
都内の老舗ホテルに勤務する続力(つづき・ちから)は、書道教室を営む遠田薫と仕事をすることになる。
実直なホテルマンである続は始めのうち、奔放な書家遠田に振り回されるが、書道教室に通う小学生から頼まれた手紙の代筆を手伝うことをきっかけに、少しづつ遠田に対する感情が変化していくことに気づく・・・。
人間関係には節度を求め、家族であれ恋人であれ、他人の前では有りのままの自分を出さない続。
それに対し、養父と『屁で会話する』遠田。
対照的な二人のやり取りが正に絶妙。テンポよく進み、だが心地よい無言もあり。
書道とは無縁で芸術のなんたるを知らなかった続の心をとらえて離さない、遠田の書の世界。そんな豪快・奔放、繊細さのかけらも見当たらない遠田だが、実は人には言えない過去を持っていて。
それを知ってしまった続と遠田の関係性に変化がおき、二人は距離をとるように。
このまま何もなかったかのようにそれぞれの道を歩むのか、それとも。
一気読み間違いなしの良本。
私は一気に二度読みしました。
この本、しばらくは手元に届くところに控えることになりそうです。
「墨のゆらめき」感想
読んでいると心の中で笑っているつもりが隠し切れず、表情ついには声に出てしまうくらいに面白い。
そして何といっても物語に彩を加えてくれる最大の要素は、遠田の腕から繰り出されるあらゆる筆跡。その文字が放つきらめき。
書道に限らず、現代人が置き忘れてきた芸術世界の何とも言えない解放感を、芸術に興味ある人はもちろん、そうでない人にも、味わわせてくれる物語。
読後、心が開けて、何か新しいことを始めたくなること間違いなし。